アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』 (岩波書店, 2000年)

民族とナショナリズム

民族とナショナリズム

ナショナリズム論の定番らしく、大学の講義で書名は知っていましたが、ようやく読みました。

本書の主な主張は次のようなものです: ナショナリズムは、その思想が言葉通りに主張していることと別に、実際に成し遂げたことは、産業社会に必要不可欠な、読み書き能力を中心とする一様な高文化を準備したこと。産業社会にとってそのような高文化が必要な理由は、産業社会が数多くの専門領域を創り出し、かつ年々それを刷新するものであるため、その成員は、文脈に依存しない明快な言語コミュニケーションを通じて、それら専門領域に通暁することが求められるから。かつ、産業社会が成り立つためには、ある程度以上の人口が必要であるため、多くの小規模な文化的まとまりについては、ナショナリズムの試みは失敗するか、あるいは単に事実上消え去った。

また、こうして形作られる高文化は、どれも同様に産業社会の実現に寄与するものなので、個々のナショナリズムによらず似通っていて、翻訳が容易。ナショナリズムの思想は、その主体の独自性をナショナリティとして主張するけど、実際の機能としてはかえって独自性をかき消す。

本書の記述のスタイルは、上記のモデルを提示しつつ、必要に応じて例を引いてみたりざっと計算してみたり架空のケースについて考察してみたりというもので、事実に基づく論証という感じではありません。ということで、若干もやっとします。