The movie of the year 2016: 『放浪の画家ピロスマニ』

『放浪の画家ピロスマニ』 - Uplink

下高井戸シネマで見た、グルジアの画家ニコ・ピロスマニの伝記映画。グルジア語での上映は日本初だそうです。本当に美しい作品でした。

ピロスマニの絵は単純で、素朴で、平面的なのですが、この映画も、単純で、素朴で、平面的な映像で表現されています。とりわけて、乳製品のお店をひらいて、すぐにたたんでしまう一連の映像が素晴らしかった。大草原にポツンとお店が建っていて、とびらの左右には白黒の牛の絵が掛かっていて、入ると真正面に、奥行きも何もなく、ニコが棚の前で店番をしている。共同経営者の友人と仲違いしてお店をたたむ時は、とびらを出て友人がまっすぐ左に、ニコが絵を抱えてまっすぐ右に去っていって、それでおしまい。結婚式の舞踊の場面も美しかった。

絵のうまい下手について。ピロスマニの絵は、技巧に秀でているわけでは全然ない、と見えるのだけど、しかしあれを下手とは言えない。良い絵だと思う。ニコは純粋芸術として、あるいは芸術市場のために絵を描いていたわけでは全然なくて、トビリシの街の人たちの店や家の壁に掛けるために、具体的な注文に応じて具体的な絵を描いています。絵の描き方は誰に教わったわけでもない独自のものとして完成されていて、それについては専門家としての自負を持っていて、ときには注文主との喧嘩も辞さない。芸術市場の評価に翻弄されても彼のスタンスが変わることはなくて、死後100年経った今、遠い土地で彼の絵を見ていいなあ、と思っている。不思議ですね。