ブラック・ブレッド: スペイン戦争に負けた左派の少年から見た世間

映画『ブラック・ブレッド』を見ました。カタルーニャ地方 *1 の農村を舞台として、スペイン戦争に負けた共和国派 (左派) の男の息子を主人公とした映画です。

フランコが天下を取った時代において、少年の家族はアカの負け犬です。ですが、少年の父親は、純粋な共和国派ではあり得なかった。そもそも、純粋だったら戦後に生き残っているはずがないわけですし、生き残ってしまったからこそ負け犬なわけです。そこで、父親と土地の有力者との微妙な協力関係や、同志に対する複雑な裏切りが明らかになって行くところが、この映画の本筋です。

日本の転向文学と通じるテーマを持った映画だと思うのですが、第二次世界大戦後の一億総懺悔とか、獄中不転向のヒロイズムとかでなんとなく総括してしまった日本に対して、フランコの体制が1970年代まで続き、そのまま現王制に禅譲されたスペインにおいては、共和国派の立場からの総括というのは、表立って行われる契機がなかったんじゃないかと想像します。この映画からも、政治的なるものを忌避し抑圧する当時の世間の雰囲気が伝わってきます。「当時の」と書きましたが、「当時」がいつ終わったか、そもそも終わっているのか否か、私にはちょっと分かりません。この映画がスペインで公開されるや大評判を取ったらしいことを考えると、現在においてもなお問題的で刺激的なテーマなんだろうことは想像できます。

「スペイン戦争後」というのはとても興味深いテーマだと思いました。しばらく追い掛けてみようと思います。

*1:現在カタルーニャ地方はスペインからの独立問題で沸き上がっています。スペイン戦争においても、カタルーニャ独立派は重要な位置を占めたはずですが、この映画では特に触れられていません。