オルハン・パムク『雪』(宮下遼訳)

「吹雪の山荘」ものの政治群像劇。「西欧」や「イスラム」や「神」や「世俗主義」や「失業」や「かつて社会主義だったもの」などの諸観念を、登場人物たちが言葉や実弾として投げつけ合う話です。読みでがあって面白い。

雪〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

雪〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

雪〔新訳版〕 (下) (ハヤカワepi文庫)

雪〔新訳版〕 (下) (ハヤカワepi文庫)

日本人の読者である自分には、「トルコ的なるもの」と、「イスタンブール」が表象するものの対立が印象的でした。トルコ的なるものに対立するイスタンブール = 自分だけは西欧の自由主義をものにしたつもりで、田舎者を馬鹿にしたり、状況次第でイスラム主義に同情を示したりしながら、その実は軍隊の汚れ仕事に寄りかかっているいけすかないインテリ、という感じ。一昨年に見た映画『裸足の季節』では、田舎から逃げ出す少女が目指したイスタンブールが、比較的ストレートに美化されていたのですが、こういった対立関係を念頭に見ると、また見え方が違うのかも、と思います。

会話文がステレオタイプ的に訳されていることが少し気になります。特に女性の発言に顕著です。