関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺への政府関与を否認する答弁に抗議します

産経新聞報道によれば、日本政府は、関東大震災の際の朝鮮人・中国人虐殺への政府関与について、「調査した限りでは、政府内にその事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」とし、また「遺憾の意を表明する予定はない」とする答弁を閣議決定したとのことです。

同様の答弁は昨年(2016年)にも行われています。忸怩たることに、今まで知りませんでした。

不都合な歴史的事実を糊塗・否認しようとする、これら卑劣な答弁に抗議します。

まず、「記録が見当たらない」は明白な虚偽です。そもそも、有田議員の質問で言及されている『災害教訓の継承に関する専門調査会報告書』自体が「政府内」の「記録」です。また、同報告書は震災について多くの一次資料・二次資料を引いています。その中では、虐殺のきっかけとなったデマの流布に政府が関わった事例、虐殺に政府・軍が直接関わった事例も触れられています。その内のいくつかは、同時代の「政府内」の「記録」です(p. 191, pp. 207-209, pp. 209-210)。

この報告書を取り上げた質問に対して「記録が見当たらない」と言っているわけですから、これは「理解不能」とか「怠慢」とかいう次元の話ではなく、あからさまな虚偽の強弁です。同報告書は、今年の4月に内閣府のサイトから一時的に削除されて、虐殺に関する情報を隠蔽する意図があるのではないか、という疑念を呼びました。今回の答弁は、この疑念をあらためて深めるものです。

また、「遺憾の意を表明する予定はない」との答弁は、正義への挑戦であり、被害者に対する冒涜です。政府答弁は単なる叙述ではなく、政治的行為としての言語行為なのだから、ここで政府は「遺憾ではない」という立場を表明したわけです。悲しいです。

最後に、一連の政府答弁に、歴史を直視し、生かそうという姿勢がまったく見受けられないことを懸念しています。危機の際に社会の周縁に位置する人々が攻撃されることは、古今東西、社会集団の大小を問わず普遍的な事象です *1 。それが他人事ではない証左として、私が住んでいる関東平野には、100年前の虐殺の歴史が染み付いています。そこから目を背けないことは、今の私たちの責務だと思います。

*1:念のため、だからといって個別の迫害が免罪されるわけではありません。迫害は偶然的な出来事ではなく、日常的な不正義の爆発的な現れです。