朝青龍の円熟

朝青龍はとにかく速くて、強くて、ふつうなら無茶苦茶な技を仕掛けたって、危なくもなんともない。彼が進むあとから道理がゼーゼー言いながら追いかけて、追いついたころに本人はもう勝利の喜びに破顔一笑、大得意で花道を引き揚げている。

朝青龍白鵬に本割の相撲で勝てなくなって、新しいスタイルを披露したのは2010年の正月場所だった。おっつけで相手の差し手を殺して、ハズ押しで相手の上手を遠ざけて、とにかく相手のいいところを全部消して、なにもできなくしてから、一撃で仕留める。見事な優勝で、朝青龍の円熟ってこういうことかと感心も得心もしていたら、例の暴行事件であっさり辞めてしまった。円熟した朝青龍が見られたのはそのひと場所っきりだった。