『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』

光と闇?どこに光が?

メキシコ麻薬戦争最前線の街で、麻薬カルテルに怯えながら日々死体を処理する警察官と、国境のフェンスを挟んだアメリカの街で、麻薬カルテルを賛美する歌で人気を得つつある音楽家を交互に撮ったドキュメンタリー映画です。

メキシコ側のシウダー・フアレスは、麻薬カルテルの抗争で、年間に何千人が殺される街です。蜂の巣だったり黒焦げだったり裸にひんむかれていたりバラバラだったり原型をとどめていなかったり、色とりどりの死体がポンポン登場します。そんな中で謹直に職務をまっとうする警察官、とは言い条、日に1ダースも人が死ぬところでまともな捜査ができるはずもなく、何かあったら、いや何もなくたって簡単に自分が肉塊になるのですから、首をすくめて視野を狭めて、ひたすら死体を回収してまわるだけです。

一方のアメリカ側では、「政府の奴らをAK-47で端から端までぶち殺してやったぜ」とか「今日も明日もアメリカ人どもにドラッグを売りつけよう」みたいなことをスペイン語で歌う、ナルココリードというジャンルの音楽シーンが形成されつつあって、たいへんバブリーな様子です。なんのことはない、ライブに集まってるみんな、フェンスを越えて密輸されたドラッグで気持よくなってるわけです。

ナルココリードはメキシコでも人気があって、くだんの捜査官のホームパーティでも楽しげに演奏されています。「あいつの歌い方は気に入らないな」とか言ってる。いったい何なんだ。

「おっかないから車のナンバーは見ないふりしたよ」とか警察官がしゃべってたり、その話を聞いてた同僚が死体になったり、田舎の農園で「できたてのメタンフェタミンだよ!(ザクザク)」とか、言語を絶する情景が次々に映ります。

何もかもがおかしい、とんでもない映画です。まだしばらく、青山通りのシアター・イメージフォーラムで掛かっています。